宮崎大学医学部付属病院救命救急センター

| コメント(0) | トラックバック(0)
救急救命センター.jpg

 人間の命は皆等しく、誰もが平等に医療を受ける権利がある。人生に「たられば」は起こり得ない事象ではあるが、「もっと医療機関が近かったら」「もう少し早く治療が行われていれば」助かった命があったかもしれないー。県土の約7割強が森林という宮崎県では、医療機関から離れた山中の医療過疎地が多く点在し、こうした事態に涙を飲む人が多数存在した。

 しかし、昨年4月、事態の解消が図られた。宮崎大学医学部付属病院に救命救急センターが開所し、県内初のドクターヘリが導入され、問題となっていた地域間の医療格差に少しずつ解決の兆しが見られてきたのである。

 今日は、宮崎大学医学部付属病院救命救急センターセンター長の落合秀信氏に、自身が救急救命医を目指した契機から、開所一年が経過したセンターの現状、そして今後の展望までを伺った。

救急集合.jpg

■救急医を目指したきっかけ

―元々は脳神経外科の医師として活躍していた。

落合 医学の道を志すようになったのは、癌を患った祖父の死を経て、当時読んでいた手塚治虫氏のマンガ「ブラックジャック」のように自らの手で人の命を救いたいという思いからでした。医学部卒業時には救急救命の専攻を検討していましたが、当時はまだ救急を専門とする病院はほとんどなく、まずは脳神経外科医としてスタートを切ることになりました。転機となったのが平成17年、私の娘の交通事故でした。救急患者の多くは、頭部損傷の事例が多く、初期治療によって助かる確率が大きく変動するため、現場での処置が非常に重要になります。娘も頭部外傷で運ばれましたが、初期治療が功を奏し、運良く後遺症も残ることなく無事に退院することができました。このことが大きな契機となって救急救命医の必要性を強く実感し、死の危機に瀕した患者を救いたいと、救急救命医へと軸足を切り替えました。

■救命救急センターの立ち上げ

―その矢先、宮崎大学に救命救急センターが開所した。

落合 センターの立ち上げに際しては、様々な事柄が追い風となり、開所すべくして開所したという思いです。

これまで、県内は県立宮崎病院と県立延岡病院の2カ所に救命救急センターが設置されていましたが、地域医療の大きな枷となっているマンパワー不足等の慢性的な課題があり、核となる救命救急センターの設立が待たれていました。また、近年は救急医療を専攻したいという先生方の声が多くありながらも、研修可能な施設がなくほとんど県外へと流出してしまっていたので、ぜひ地元宮崎で研修の出来る施設の設立が必要だと言われていました。さらに、県内には山間部等の医療過疎地が散在し、急性期の患者の救急搬送にかかる負担が非常に大きく、地域間の医療格差を解消するためにもドクターヘリの導入が必須であるという声も高まっていました。こうした声が各所から上がる中、県の地域医療再生交付金の交付が決定し、全てが追い風となって平成244月、救命救急センターの立ち上げが現実のものとなりました。

ヘリ.jpg

■センター概要

―センターの概要を。

落合 当センターは宮崎大学医学部内に設置され、スタッフドクター16名、後期研修医2名、初期研修医46名、看護師48名の約70名体制で、様々な診療科の経験豊富な医師・看護師が揃っています。スタッフは2交代制で、患者の受け入れは24時間365日間対応可能です。センター内はベッドが20床で、入院の際は隣接した救命救急センターで速やかに治療を開始することが出来ます。センターで扱う主な疾患は重症外傷、多発外傷、脳血管障害、急性心筋梗塞、致死的不整脈など緊急を有する重症疾患となります。

―ドクターヘリの運用方法は。

落合 患者発生からドクターヘリの出動までには、まず現場の救急隊から出動要請があった後、傷病者の情報収集、運航管理室による気象条件等の出動判断、操縦スタッフ及び医療スタッフの出動準備が同時に行われ、出動要請から5分以内に基地病院を離陸します。県内にはヘリの離着陸場であるランデブーポイントが360カ所あり、県内全域が110km圏内ということで、到着までの所要時間は最も遠い大分県境でも30分程で到着することができます。ヘリには医療機器や医薬品が備えられており、現場到着後すぐに生命維持のための初期医療に取りかかることが出来ます。処置完了後、患者の容態や搬送時間等を考慮し、搬送先の医療機関までヘリ、あるいは救急車による搬送を行います。

―出動件数の推移は。

落合 センター開所時は1年間で400件を目標としていましたが、331日時点で総要請件数398件、その内、現場出動が181件、施設間搬送が144件、キャンセルが73件となり、目標通りの数値を実現することが出来ました。

 出動要請の中には、心筋梗塞の方や、山岳部での作業中にチェーンソーで足を切って出血性ショックになられた方、倒木が肺に当たり呼吸困難に陥った方など、現場での処置がなければ陸路搬送では間に合わなかった方もたくさんいらっしゃいました。また、県内には消防救急をもたない町村が7カ所あり、重症患者の搬送時には医師が付き添うため、地域によっては無医村となってしまう現状がありました。しかし、ドクターヘリの運用によってこうした状況も解消へと向かい、助かる命が拡大したことを非常に嬉しく感じています。

1年が経過し、実感は。

搬送中.jpg

落合 センター開所から特に大きな問題もなく、運用態勢も整いつつあり、順調に経過しているように感じます。こうした背景には、大学病院内の各専門診療科の先生方のご協力が非常に大きいと言えます。センターには20床しかベッドがないため、救急で運び込まれた重症患者の処置完了後は、各科の先生方が根本治療を担当するという後方連携の仕組みが整っており、救命救急センターといえども、病院全体が総力を挙げてセンターを支えているという理想的な運用が叶っています。さらに、最近は院内に限らず、経過が落ち着いている患者に対しては、県医師会協力のもと、地域の病院に受け入れて頂くという取り組みも進めています。今後は、県内7つの医療圏の核となる病院同士の連携を進めていきながら、県全体で救急患者をカバーできる体制を創出していきたいと思います。

■今後の展望

―最後に今後の展望を。

落合 今後、私の目指すセンターの形があります。一つ目は人材教育の充実です。これまで救急救命医を目指しながら十分な研修施設がないために県外へ行かれた先生方が再び宮崎に戻ってこられるような救急医療の研修の場を創出するため、救急医療を志す方々、そして地域の救急救命士として活躍する方々へ広くセンターの門扉を開き、効率よく研修できる体制を整備したいと考えています。二つ目にドクターヘリの認知度向上です。未だドクターヘリの存在が根付いていない地域があり、救える命を繋ぐというドクターヘリの重要性、利便性をこれからも広く啓発していきたいと思います。と同時に、1年間培った出動結果をきちんと検証してフィードバックし、ドクターヘリ事業の質の向上に努めたいと思います。三つ目に救急患者の受け入れを増加するためのマンパワーの強化です。ありがたいことに、当センターで後期研修医として勤務していた二人が「ここで勉強したい。」と当センターへ入職してくれました。日々スタッフ達が生き生きと働く姿に、センターの充実度を見ている気がします。これからもチームの和を大切に、センター全体、ひいては病院全体で宮崎県の救急医療の発展に貢献していきたいと思います。

私達のユニフォームの背中には「For MIYAZAKI」と書かれてあります。これを体現すべく、宮崎県民のために救急医療を行うという気持ちを忘れず、さらなる地域医療の拡充を図っていきたいと思います。

―お忙しい中ありがとうございました。(聞き手・酒井里佳)

救急救命センター概要.jpg

Categories

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 宮崎大学医学部付属病院救命救急センター

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.blog-journal.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/391

コメントする

2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31