古賀総合病院 院長 栗林忠信 先生

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現在、世界の成人人口の56%が糖尿病を抱えていると推計され、年間300万人以上の人が、糖尿病のために亡くなっており、合併症などによる間接的な死亡を加えると、更に多数の人が亡くなっていると発表されている。

私達の多くが、年齢に伴う体型の変化と共に、何となく気にしながらも、何ら積極的な手だてを打とうとしていない『糖尿病』について、日本糖尿病学会指導医で、宮崎市の古賀総合病院院長の栗林忠信先生に伺った。

―生活習慣病の代表選手といってもいい「糖尿病」ですが、患者さんは現在どの位いるのでしょうか。

栗林 2006年(平成18年)の厚生労働省の国民栄養調査からの推計で、予備軍を入れると1870万人位、約820万人ほどの糖尿病の患者さんがいるだろうといわれています。その4年前の調査からすると、約700万人ほど予備軍が増えているんです。

間違いなく右肩上がりで増えているといえますね。

このまま行くと、23年後には、糖尿病の患者さんは1000万人を超えるのではないかと予測されます。そこで国が、この4月から特定健診、いわゆるメタボ健診・保健指導を始めた訳です。

 

―これほど増えている原因はどこにあるのでしょうか。

栗林 一言でいうと、食生活の欧米化、そして車社会による運動不足でしょう。

白色欧米人はもともと狩猟民族でしたが、我々日本人・アジア人は、農耕民族なんですね。ですから、遺伝的にあまり脂に耐えられない身体に生まれているんです。

そこに欧米の食生活が入ってきた訳ですが、戦後間もなくは、まだ糖尿病は珍しい病気だったんです。

我々の学生時代(昭和40年代)は、教科書に糖尿病に関しては数ページしかありませんでした。ところが、今では糖尿病だけで1冊になるほど、大きく取り上げるようになっています。まさに現代病・生活習慣病で、車の増加・脂肪の摂取量の増加と比例して、糖尿病は増えているといわれています。

ですから糖尿病対策は、今、国の政策の中で重要課題の柱のひとつなんです。

 

―その対策の中で、「グリコヘモグロビン」の数値が有用だといわれていますが、この

「グリコヘモグロビン」とは何なのでしょう。

栗林 ヘモグロビンとは、赤血球の中にある主に酸素を運搬するタンパク質で、皆さん

貧血の検査をするときなどに耳にされたことがあるでしょう。

そのヘモグロビンの一部にブドウ糖がくっついたものを「グリコヘモグロビン(HbA1c)」といいます。このグリコとは、お菓子のグリコと一緒で、糖化、つまり糖に置き換わったヘモグロビンを「グリコヘモグロビン」といっています。

 

赤血球には寿命があって、11個の赤血球は、大体3ヶ月から100日でターンオーバー、新しく生まれ変わりますが、新しく生まれてきた赤血球に、血中に存在したブドウ糖の一部がくっついています。

その一部を「グリコヘモグロビン」として測ると、赤血球の寿命の平均値から、ちょうど採血した日から1,2か月ほど前、過去の血糖の状態を見ることができるんですね。

 

血糖値とは、採血した今の状態です。

例えば、患者さんの中に、翌日病院で検査があるので、前の晩だけいつも飲んでいるお酒を控える方がおられます。そうすると、見た目には血糖値が良く(正常な数値に)見えるんですが、「グリコヘモグロビン」として測れるようになると、あまりごまかしはきかないんですね。

そうした糖尿病のコントロールの目安にするということと、今回の特定健診では

「グリコヘモグロビン」を糖尿病のスクリーニング(ふるいにかける・選別)にしようということになっています。

 

通常、「グリコヘモグロビン」の正常値は5.8%くらい迄としていますが、糖尿病を早期に発見して、早期に生活習慣に介入することで未病(発病する前)に防ごうという考え方から、基準値が非常に厳しくなり、5.2%を超えると『要生活指導』に入り、保健指導を受けなければなりません。

我々、糖尿病の臨床では、患者さんに5.8%以下は、コントロール優良ですよと

申し上げますが、まだ糖尿病という診断のついていない方のスクリーニングについては、少し厳しくして、軽い内から見つけようという考え方に変わってきています。

 

この「グリコヘモグロビン」については、まだまだ認知度が低いこともあり、広く国民に知らしめるために、社団法人日本糖尿病協会が、一昨年から『グリコヘモグロビン認知向上運動』を始め、今年75日には、第3回の『グリコヘモグロビン認知向上運動』

(糖尿病の予防と治療を目指して)が、宮崎市で開催され、希望者を対象にグリコヘモグロビン(HbA1c)検査と、肥満度をチェックするBMI測定を無料で体験して頂きました。

 

―やはり糖尿病を放っておくと、余病につながるのでしょうか。

栗林 そうなんです。ご存知かもしれませんが、『糖尿病は人類にとって危機的な疾患である』として、一昨年12月に国連決議で"世界糖尿病デー"が制定されました。

Unite for diabetes = 糖尿病に対して団結して闘おうといった意味合いですが、

糖尿病治療に使うインスリンを発見したフレデリック・バンティング博士の誕生日に因んで、1114日を「世界糖尿病デー」として、昨年は東京タワーや鎌倉の大仏様、

大阪の通天閣など各地の名所が、シンボルカラーのブルーでライトアップされました。

 

国連が決議したのは、糖尿病そのものではなくて、糖尿病に伴う合併症、つまり心筋梗塞や脳梗塞・腎不全などで亡くなる方が非常に多い状況を問題視したからです。

日本でも、末期の慢性腎不全になって透析に入られる方の原因疾患が、昔は慢性腎炎が一番多かったんですが、ちょうど2000年頃を境に、糖尿病がトップになりました。

新規に人工透析を導入される患者さんの4割から5割近くの原因疾患が、糖尿病という状況になってきています。

 

糖尿病は、ただ血糖が高くなる病気ではなくて、全身の血管を傷めていく病気で、糖尿病のために腎臓が悪くなったり失明される方が後を絶ちません。

日本でも、年間に3000人から4000人の方が失明されているように、合併症が怖い病気ですから、早期に診断してもらう必要があります。

しかし、皆さんに、糖尿病とはどんな病気なのかを正しく、充分に理解して頂かないと、ただむやみに怖がっていても仕方がありません。

 

―正しく理解した上で、対策を講じることで、多くの病気予防につながるのですね。

栗林 はい。基本的には、食生活を改めて、運動習慣を少し改善してあげることで、

かなり予防できます。糖尿病だけでなく、脳梗塞であるとか、心筋梗塞といった血管の病気を予防することができます。

 

食事について言えば、もともと日本人は、昭和30年代までは和食中心の食生活でした。それが昭和40年を境に、高度経済成長と共に、外食産業が盛んになり、食生活が欧米化していきました。

基本的には、家庭で、野菜や魚を中心にした昔ながらの日本食を心がけて、脂もの、特に動物性の脂を摂り過ぎないことが非常に大事です。

昔の食事では、脂肪は摂取カロリーの20%を超えることはありませんでした。

それが最近では、25%から30%。高校生に至っては、30%以上脂肪を摂っているというデータもあります。

外食をすると、どうしても動物性の脂を摂ってしまいがちになりますので、できるだけ控えた方がいいかと思います。

 

運動については、よく11万歩といいますが、1万歩でどのくらいエネルギーが消費できるかというと、わずか"うどん1杯分"のカロリーなんですね。

ですから、運動しているから大丈夫とばかりに、いくらでも食べていると、とても間に合いません。ゴルフ場に行って、ラウンドして、1万歩以上歩いても、食事と共にビール1杯でも飲もうものなら、その日の運動はすべてご破算になってしまいます。

ですから、食生活と運動のバランスをとることが大切です。

 

運動の基本は、やはり歩くことが一番です。

よく足腰が悪いから歩けないとか、天気が悪いから今日は運動できませんとか、言い訳をされる方がおられますが、家の中でも運動は簡単にできます。

椅子に座った状態で足踏みをするだけでも、大腿の筋肉を相当使います。大腿筋を動かすと、非常にカロリーを消費しますから、20分もやるとかなりキツイです。

これだけでも充分な運動になりますので、患者さんにはお勧めしています。

 

特別なことをしなくても、日常の生活の中でできることを工夫すればいいんです。

家事でも、今では雑巾がけなど殆どしないでしょうが、掃除機をかけるにも、床だけでなく、腕を伸ばして壁にもかけるとか、掃除機を手に抱えてかけるだけでも、随分運動になるんですよ。そんな工夫をすることで、運動量は確実に増やすことができます。

これで腹七分から八分で、食べ過ぎなければ大丈夫でしょう。

先程も申し上げましたが、糖尿病は余病を起こすと怖い病気ですが、正しく認識し、

きちんと自己管理さえできれば、合併症を起こすことは殆どありません。

 

―そのためにも、自ら進んで検診を受け、生活習慣を改善する必要があるんですね。

栗林 そうですね。それから、糖尿病という診断を受けた後に大切なことですが、

合併症を起こして病院にこられる患者さんの多くが、治療を中断しておられる方なんです。自覚症状もないし、大したことはないと自己判断し、毎月通うのは大変だからと、

ついつい治療を中断してしまわれる・・・それから数年経って、症状が出てきたときには、合併症を起こしていることが多いんです。

糖尿病、あるいは境界型予備軍という診断を受けたその時点から気をつけて、医療関係者のアドバイスをしっかり聞いて、治療を中断しないでいただきたいですね。

 

確かに、自覚症状はないし、薬も出ないし、食事制限だけだし・・・ということで、つい油断してしまわれる方が沢山おられます。

しかし、日本人の3分の1強の方が、インスリンの分泌が非常に悪いという素因を遺伝的に持っておられます。脂ものを摂り過ぎると、糖尿病になりやすいということです。

油断大敵、体質として一生ついてまわるものだと認識・自覚しておくことも必要ですね。

 

先ずは、この4月に始まった特定健診(40歳~74歳対象)を、是非、できれば100%皆さんに受けていただきたいですね。

そして、異常を指摘されたら、自分の生活習慣のどこが悪いのかを素直に受け止めて改善していくことが、右肩上がりに増えている糖尿病を抑えるいちばんのポイントになると思います。

 

*****

栗林先生のお話では、特定健診対象以外の、児童や若年層でも、家族や親族に糖尿病が多い、あるいは肥満傾向にある場合。また、女性で4000g以上の巨大児を出産した経験がある場合は、母親のすい臓からインスリンが余分に出ていることがあり、習慣的に流産をしやすい場合と共に、糖尿病になる可能性がある。

メタボ健診対象者で、血圧・コレステロール・中性脂肪が少し高く、肥満傾向にある方は、予備軍である可能性が非常に高いとのこと。

自分を守るのは、結局自分自身であることを、しっかり自覚して、年齢に関係なく、

進んで健診を受けることが、健康で長生きの最善策といえそうだ。

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