宮崎大学医学部 放射線科  榮 建文 先生

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宮崎大学医学部放射線科.jpg背筋や腰を伸ばそうとして、思わずイタタタッ・・・背中や腰の痛みに悩まされたことは、誰にでも1度や2度はあるのではないだろうか。原因には色々あるが、高齢化と共に考えられる原因のひとつに『圧迫骨折』があげられる。その圧迫骨折の治療法として、とても有効である「骨セメント注入療法」について、宮崎大学医学部放射線科の栄建文(タテフミ)先生に話を伺った。

―これからの新しい治療法のひとつとして注目される「骨セメント注入療法」とはどんな治療法なんでしょうか。

 

圧迫骨折に対する治療法ですが、先ず圧迫骨折について簡単に説明すると、圧迫骨折とは一般的に胸椎や腰椎といった脊椎、背骨の骨折をいいます。骨折というと、脊椎の形が変わってしまうイメージがありますが、 実際は形は変わらないままの状態での圧迫骨折も、結構多いんです。

高齢者の方で、しりもちをついたりして腰が痛くなり、X線写真を撮ってみたけれど、骨自体に変形が見られない場合は、従来ですと圧迫骨折とは判断されなかったのですが、現在,多くの施設で検査ができるようになったMRI検査(磁気共鳴画像:強い磁石と電波を使い体内の状態を断面像としてとらえる検査)をしてみると、骨は変形してはいないものの出血や浮腫というように骨そのものが損傷を受けている場合があり、これを含めて圧迫骨折と呼びます。

 

―圧迫骨折にはどんな原因があるんでしょうか。

 

高齢者の場合は、骨粗鬆症が大部分ですね。骨粗鬆症の方の骨は、例えて言うと、饅頭の皮はしっかりしているのに、中身のあんこがすかすかになって、形が潰れやすくなった状態と同じです。つまり、骨の成分が減少したり、構造が変化して、饅頭の皮の部分である骨皮質はまあまあしっかりしているけれど、あんこの部分である骨海綿が弱くなった状態で、特に女性に多く、50歳以上では4人に1人、70歳以上になると2人に1人が骨粗鬆症だと言われています。

こうした骨粗鬆症のある人がしりもちをついたり、重いものを持った時に、骨が耐え切れずに、簡単に圧迫骨折を起こしてしまいます。

後は、悪性腫瘍、特に肺がん,乳がん、前立腺がんからの骨への転移が原因で圧迫骨折が起こる場合があります。

圧迫骨折が起こりやすい部位としては、胸腰移行部・・・長く座っていると痛くなる腰の上の方、みぞおちの後ろ側辺りで、脊椎に圧迫骨折を起こすと、非常に強い痛みを感じます。圧迫骨折を起こすと、体動時痛といって朝起きて布団から出るときや、椅子から立ち上がるなど、動き始めの強い痛みがある、場合によっては全く動けないことがあります。

 

―高齢化は避けて通れないものですし、悪性腫瘍も他人事ではない病気ですから、圧迫骨折は誰にでも起こりうると考えていいのかもしれませんね。その圧迫骨折に非常に有効である「骨セメント注入療法」、具体的にどんな治療法なんでしょうか。

 

簡単に言うと、弱くなった骨に針を刺して、骨セメントを注入し骨を強化する治療法です。骨セメントとは、子供の頃の工作の時間に使ったことがある石膏を思い浮かべてもらうと分りやすいと思います。その石膏に似たきめ細かな粉と溶媒(接着剤)を混ぜて、軟らかい内に針で骨の中に注入します。

石膏の場合は、固まるのに数日かかりますが、骨セメントは注入後、数分で固くなり、10分~20分で人間の手では割れないくらいの固さに、24時間で最大硬度になります。但し、注入といっても、骨折を起こした骨の中にいっぱいいっぱいに充満させるのではなく、ある程度の量を入れることで大きな効果が得られます。

これでなぜ痛みが取れるのか、解明されていないところもありますが、ひとつは骨の軟らかくなったところに注入し芯ができることで、骨が平均的に固くなること。もうひとつは、圧迫骨折の痛みは、骨が弱くなって、かかる力を支えられず、また骨の中が血の塊や浮腫、いわゆる水ぶくれで腫れた状態になっていることが原因と考えられますが、注入された骨セメントが固まるときに、60℃~80℃の熱を出すことで、周りの血液も固める作用があるので、充満ではなくある程度の骨セメントの注入でも強度を増し、骨全体を固めるのを促進し、結果的に痛みが取れるのではと考えられます。

逆に、充満させてしまうと、特に骨粗鬆症の方の場合は、上下前後の骨も軟らかくなっているのでバランスを崩してしまい、上下の骨が壊れてしまうので避けなければなりません。一方、転移性腫瘍の場合は、骨粗鬆症の方に比べると若い患者さんが多く、できる限り充満させた方が効果が高い,といった違いがあります。

 

―その辺りの判断は、先生方の経験と技術によるところが大きいんですね。ところで、治療にはどのくらいの時間がかかるのでしょうか。

 

 ●従来より圧迫骨折を起こした場合は、痛み止めを使用しながら、数日から数週間安静状態を保つ治療が行われます。骨セメント注入療法は、治療する骨の状態や、治療する数によっても変わりますが、通常は1~2時間程度の手術時間で治療が終わります。治療後は、数時間はベッドで安静にしてもらいますが、治療前には痛みで起き上がるのもイヤ、あるいは歩くのも辛いといった方が、翌日には立って歩くことができます。入院期間も34日程度です。なお,圧迫骨折を起こして時間が経っていない方が治療効果は高いのですが,圧迫骨折後,時間が経っても痛みが残っている場合でも,効果がある場合もあります.

 

―手術(治療)時間にしても入院期間にしても、患者にとって負担が軽い治療法といえますが、他にどんなメリットがあるでしょうか。

 

従来の長期安静治療ですと,高齢者の方の場合はベッドの上での長期間の生活ですぐに筋力が衰えてしまいます。そのため、痛みが軽減しても筋肉が萎縮して、歩けなくなることがあります。そこで、痛みが取れた段階でのリハビリが必要となり、退院までの期間が更に延びてしまうことがよくあります。

更には、高齢の場合、入院が長引くと、ベッドでの安静生活で刺激がなく、認知症の症状が出てくることもしばしば経験します。ご家族の方が、「うちのおばあちゃんは歳は取っていても元気ですから大丈夫です」といわれても、病院の独特な雰囲気の中で認知症を引き起こしてしまうことがありますので、医者としてはそうならないよう、なるべく入院期間を短くして差し上げるのが、一番の対策だと考えています。そういった意味でも、骨セメント注入法は有効な治療法だといえるでしょう。とはいっても、強制的に34日で退院させるなどということは決してありません。圧迫骨折以外の筋肉痛などの症状が治まるまで安静状態を保つために、患者さんが「もう少し入院していたい」と希望される場合には、12週間程度の間,入院してもらうこともありますが,基本的には早く退院して,早くもとの生活に戻ってもらいたいと考えています。退院の時には,「痛みが楽になった。」と言ってもらえることが多く,我々も励まされます。

 

―痛みで立てない、歩けなかった人が、数時間後あるいは翌日には歩けるという劇的とも言える治療法ですが、まだ知らない方も多いですよね。

 

骨セメント注入療法は、脊椎圧迫骨折による痛みの治療法として、1980年代後半からヨーロッパを中心に行われるようになった比較的新しい治療法です。1990年代後半から世界的に、また日本でもその有効性が認められるようになりました。

ここ5年ほどで、いい治療法だということで急速に普及してきた感はありますが、特殊な治療法ですので、必要としている患者さんは多いと思いますが、浸透していくのはまだこれからでしょう。

宮崎大学医学部では、2002年秋に私と当時の上司とで、骨セメント注入療法を多数行っている大学に習いに行き、200212月が患者さんの治療1例目でした。

それから2008131日まで、男女合わせて述べ75103病変の治療を行っています。

 

―その患者さん方の治療効果は?

 

痛みの原因が骨だけではない場合もありますので、中には効果が少ない方もあります。ただ、痛みの感じ方には個人差があり、本人にしか分らないものです。QOLQuality Of Life=生活の質とよくいわれるように、痛みさえ取り除いてあげれば動きの制限がなくなったり、生活がしやすくなることを考えると、治療してみる価値は充分にあると思います。実際、患者さんによっては「効かないかもしれませんよ」といって治療した方で、私たちが想像しているよりよくなった、効果があった方も多数おられます。

まだ知らない方も多い治療法ですので、基本的には、他の治療法で痛みが取れない方、痛みさえ取れれば生活の状態が改善する方で、インフォームドコンセント(医学的処置や治療に先立ち、それを承諾し選択するのに必要な情報を医師から受ける権利)を充分に行い、納得していただいた上で治療することになります。但し、血が止まりにくいなど出血傾向がある場合は、難しくなります。

 

特殊な場合を除けば、高齢の方にも有効な治療で、宮崎大学医学部で治療した骨粗鬆症による圧迫骨折の方の平均年齢は79.4歳で、90代の方もおられます。

思ったより平均年齢が高くてびっくりしたんですが、最近は元気な高齢者が増えていることの裏づけでもあり、どれだけ高齢になっても痛みさえ取り除いてまだまだ楽しい生活を・・・という方には、受けていただける治療法です。

悪性腫瘍による圧迫骨折の場合、平均年齢は60.5歳と、ぐっと若くなり、中には30代の方もおられます。一般的に悪性腫瘍の場合、痛み止めを強くしたり、放射線治療を行うのですが、それでも取れない痛みは沢山あります。

歩けなくてもいいから、せめて座って食事をしたいという方に治療をし、その希望が叶った患者さんも何人もおられます。痛みによっては自暴自棄になってしまうことも心情的に理解できますが、そんな患者さんに治療をして、どんな小さな痛みでも取り除くことによって、表情だけでなく性格もとても明るくなられ、他の治療に対しても前向きになられることもよくあります。

 

―一般的に、骨粗鬆症の治療の場合、かなり長期になるイメージがありますが、骨セメント注入法だと即効性が期待できますから、腰や背中の痛みがなかなか取れない方は相談してみられるといいですね。

 

腰痛や背部通の原因には色々あるので、全てが骨セメント注入療法の適応とはならないので、まずはかかりつけの医師や整形外科で診察・検査を受け診断をつける必要があります。骨粗鬆症の圧迫骨折の場合、早ければ早いほど、治療効果があります。時間経過している場合でも治療はできますので、何らかの検査で圧迫骨折が痛みの原因と分ったら、できればレントゲン写真とMRT検査のフィルムを持って、受診していただけると、治療の適応かそうでないかの判断も容易になり、早期の痛みの軽減に結びつきます。

骨セメント注入療法は、患者さんご自身は勿論ですが、医療関係者にもまだ十分には広まっていません。あるいは治療のことは知ってはいるけれど、宮崎でやっていることを知らなくて、県外の医療機関に問い合わせて、そちらから紹介されることもあります。

特殊な装置・機器があった方がより安全に行えるため、どの施設でも行えるものではありませんが、宮崎大学医学部附属病院放射線科で、この治療が受けられます。

この治療が、圧迫骨折による痛みで苦しんでおられる患者さんにとって、早期に痛みが和らぎ、社会復帰していただく、また生活を楽しんでいただける福音となることを願っています。

 

***

<問い合わせ先>

宮崎大学医学部附属病院放射線科

月・水・金 放射線科 外来  電話:0985-85-9347

それ以外 1階東病棟(放射線科病棟) 電話:0985-85-1742

    なるべく,外来へお越しいただき,直接,お話をお聞かせください.

宮崎大学医学部附属病院 代表電話 0885-85-1510

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