宮崎大学 谷口義信 名誉教授

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  暖冬かと思えば、寒さの厳しい日が続いたりと、体調管理に四苦八苦。こんな時季に有難いのが温泉である。美しい自然に囲まれた温泉につかって、この上ない幸せを感じるのは誰しも同じであろう。しかし、その恩恵に与るばかりでなく、火山の地熱により湧き出る温泉地があるということは、火山災害の危険性もあることも心しておかなければならない。

  昨年12月から、火山活動に応じて必要な避難計画を行うための「噴火警報」が発表されるようになった。宮崎県と鹿児島県にまたがる霧島連山も、その対象となっている。

そこで、砂防学の専門家である宮崎大学:谷口義信 名誉教授にお話を伺った。

―昨年121日から、それまでの「火山情報」にかわって、噴火災害の減災により役立つ新しい防災情報として「噴火警報」が発表されるようになりましたが、その背景、経緯を教えてください。

 

「噴火警報」は火山防災の一環としてあるわけですが、これまでに起こった火山防災上の色々なイベント(出来事)に対して、法律的に国としてどんな対応をしてきたのか、その経緯を先ずお話しましょう。最近の大きな出来事としては、昭和61年の三原山噴火があります。このときは、島民全員が約1ヶ月島外避難しました。政府としても、これは大変なことで、こうした事態に対応できるように、法整備をしなければならないということになり、幾つかの対策事業の制定を経て、平成元年には火山砂防事業が制定されました。

 

そうした翌年(平成2年)に、長崎県の雲仙普賢岳が198年ぶりに活動を始め、平成3年から噴火に伴う土石流の発生や火砕流と、大きな災害を起こし始めました。

それまでの法律は、噴火が起こればそれに対応するといった対症療法的な形でしたが、やはり噴火を前もって予測し、その現象に臨機応変に対応できるような形にしなければならないということで、雲仙普賢岳が活動を始めた同年の平成2年に、活動火山特別措置法が制定されましたが、災害の拡大化・長期化に伴って、現行法の弾力的運用に迫られ、これによって翌3年には、応急・緊急対策の概念が取り入れられるようになりました。

 

つまり、従来の法律は恒久対策を企図したものであり、防災施設を作る場合は、少なくとも数十年の間は存続することが前提となっていました。ところが、例えば活動中の雲仙普賢岳では1つのダムを作っても、大きな噴火が起これば、一瞬にしてなくなってしまうかも知れないわけです。これは国家予算の二重投資になるわけで、そうしたことは従来の法律では認められませんでした。

恒久対策ということは、その場所が施設の機能を維持し得るだけ安定であるという条件の下、あるいは安定が確保されなければ、安定が確保される措置をとった上で施設を作らなければならないというのが、従来の法律でした。

しかし、雲仙普賢岳では、そういうことを言っていては住民の安全が守れません。そこで、たとえ短期間であっても災害を防いでくれれば、そこに防災施設を設けてもいいですよということが、国で認められ始めました。これが応急・緊急対策です。

雲仙普賢岳災害をきっかけに、火山対策は大きく変わってきました。平成7年には、中央防災会議で「防災基本計画」の改定がなされて、国から各火山の防災マップを整備しなさいという方針が示されました。

 

―噴火を予測し、臨機応変に対応すると言われましたが、確かに、噴火が起きてから対応できるような小規模のものであれば別ですが、大きな噴火の場合、起きてからでは対処のしようがありません。雲仙普賢岳の噴火は、火砕流の恐ろしさ、火山のパワーを思い知らされた出来事でした。霧島連山も例外ではないということでしょうか。

 

霧島山は宮崎県と鹿児島県の県境に位置する20余りの火山群から成っていて、最近の数百年間は新燃岳と御鉢火山で大小の噴火を繰り返しています。

現在の活動度は、桜島や阿蘇はAですが、霧島はそれよりは低いといえ、Bですので、危険性は充分にあります。

過去を振り返ってみると1716(享保元)年~17年には新燃岳が大噴火して、降灰のほか火砕流も発生し、周囲約15kmの地域に被害が及びました。死者・負傷者を含め、家屋焼失、山林・田畑・牛馬などに大きな被害を出しています。狭野神社を含め、その他の神社・仏閣も被災焼失したという記録が残されています。このところ暫くは落ち着いてはいますが、こうした歴史をみてみると、やはりいつ噴火するか分りません。

 

過去の霧島の火山活動の記録をたどってみると、約300年サイクルで大きな噴火が起きているようです。そうした歴史に照らし合わせると、活動の時期に入ってきたのかなと思います。そんな経緯から霧島でも、霧島火山砂防基本計画の検討がなされて、平成8年には、中央防災会議の方針を受けて、霧島火山防災マップを作成・公表しました。

このマップによって、避難ルートや危険範囲は示されましたが、その後新しい研究成果も得られ、また避難所表示に矛盾点などもあって、国・県においてはより役立つ防災マップにするための改訂作業を現在進めています。

 

こうした中で、昨年12月気象庁が従来の「火山情報」の6段階表示を新しい「噴火予報及び警報」に対応して5段階表示の噴火警戒レベルとして発表したわけです。

これは、住民本位に立ち、避難や避難準備、登山規制など具体的な防災対応が分り易くなるように改善されたもので、レベル1の火口内立ち入り禁止から、レベル2では火口周辺(火口から1km以内)立ち入り禁止、レベル3では入山(登山)禁止となっています。

レベル4では居住地域避難準備。レベル5で居住地域避難等とされています。

但し、これは一応のガイドラインができたということで、必ずしもこの噴火警報レベルが、住民が必要とする危険度と一致しない面もありますので、更なる検討が必要です。

もう少し分りやすくいうと、例えばレベル3の場合、火口から2km2.5km以内での規制対応となっていますが、火口からの位置によっては(特に居住しているなど生活圏の場合)それをレベル45として対応する必要性もあります。警報は、まだレベル3だから、避難準備のレベル4が出るまで大丈夫と思っていると対応が遅れる可能性があるかと思いますので、そのあたりはこれから、地域防災計画の中でどう活かしていくか検討しなければなりません。

 

―他の災害に比べて火山に対する危機管理意識は、低いような気がするのですが。

 

大きな問題として、台風や豪雨のように毎年襲来するものであれば、危機意識としても高いのですが、火山噴火のように何百年に1回のものとなれば、危機感が薄らいでしまうということ。そして、もうひとつは特定の場所でしか起こらないということ。

地震のように日本全国どこでも起こりうる災害に対しては、誰もが戦々恐々としていますが、火山に対してはどこか他人事といった感覚なんですね。

ところが大きな噴火、例えば約2万年前の姶良火山のような噴火が起きた場合、宮崎県はもちろん大分県をはじめ九州全域が火砕流堆積物(溶結凝灰岩やしらす)で覆われてしまうわけですから、ひとたびこうした大きな噴火が起きると逃げ場所がなくなるんです。

これは、ベストセラーにもなった石黒耀著の小説「死都日本」(講談社)にも、とてもリアルに表現されています。

 

突き詰めて言うと、豪雨の場合は、範囲や時間もある程度限定されています。ですから、少し動けば避難はできるのですが、巨大規模の噴火になると逃げ場さえ失ってしまいます。しかし、自分の生きている時代にはそうしたことは絶対起こらないだろうという神話的安心感が住民の心のどこかにあって、それが火山に対する危機管理の大きな阻害要因になっているということはありますね。

 

―確かに、自分の身近には起こらないという根拠のない自信というか、勝手な安心感はあるような気がします。だからこそ、噴火情報・警報の意味合いを考え、常に意識して、啓発していかなければならないんですね。

 

そうです。それから、私が防災委員会の度に言っていることですが、霧島一帯は畜産業が盛んで、家畜を何十頭あるいは何百頭と飼っている所もあります。しかし、いざという時、家畜の避難はできません。決して起こってほしくないことではありますが、そうなると、鳥インフルエンザからも教えられるように、災害が起きたときの対応も含めて、その処分は環境問題にも影響してきますから、噴火災害ではあらゆることを想定して考えておくことも必要であるといえます。

 

―火山噴火が起きたときの恐ろしさは、充分理解できましたが、火山が存在することによって恩恵に与っていることも沢山ありますね。

 

それはありますね。なんといっても先ず、温泉。えびの高原は、九州最高地の温泉郷ですし、風光明媚なことももちろんです。国立公園の指定第1号を受けたのも、自然の美しさに恵まれている証拠ですね。(1934年瀬戸内海、雲仙と共に、霧島国立公園として、日本で最初の国立公園に指定された。その後1964年に霧島屋久国立公園となった)

阿蘇の溶結凝灰岩によって形成された高千穂峡など含めて、火山活動とその後の雨水や河川の浸食によって創り出された美しさも、また火山の恩恵ですよね。

それを享受しながら、その一方で、やはり危険性も含んでいるということを、一朝一夕にはいかなくても、平常時から教育や、さまざまな取り組みを通じ、啓発活動を地道に続けていかなければなりません。

 

―恩恵に与るだけではいけませんね。

 

そうですね。危険と、幸せというか豊かさとは常に隣り合わせ、それが自然なのかも知れませんね。表裏一体という形で、火山は人間生活に貢献しているし、幸とともに害も与えてきたということですね。

 

* * *

寒い冬を越えて、春山シーズンが訪れれば、自然の美しさに誘われて、また韓国岳や高千穂峰に登ったり、大浪池辺りのトレッキングを楽しみ、温泉で疲れを癒す機会もあるだろう。そんな時、霧島山は活火山であることも忘れないでおきたいものである。

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