クラフトデザイナー 小林俊雄さん

相変わらず宮崎が元気である。地鶏に完熟マンゴーと、宮崎が注目されてから改めて認識したことがある。ピーマンにスウィートピー、スギなど生産日本一や上位を占めるものがいくつもある。
そんな中で、建築材として広く用いられるスギで作った木目も曲線も美しい器が密かな人気となっている。

クラフトデザイナー・コーディネーターの小林俊雄さんが作る器の数々だ。

東京理科大学数学科を卒業した小林さんが、全く方向性の違う木工芸の世界へ進んだのは、父親の影響だった。 日本画家で蒔絵も手がけていた父の許で育った小林さんが中学生の頃、大分には竹細工や木工芸、佐賀には陶芸などがあったが、宮崎には全国に誇れる伝統工芸がなかった。

地域の素材を使った伝統工芸品を創ろうという通産省の呼びかけで、九州の工芸作家の先駆者であった大分県日田市の時松辰夫氏、福岡県の柏崎栄助氏を迎え、小林さんの父毅さんも加わり、小林家を拠点として指導に回った。
当時15歳だった小林さんの中に、その様子が深く刻まれた。

大学卒業後、九州木工芸の拠点といわれていた日田市の時松辰夫氏の下で轆轤を学んだ。それから、ひたすら轆轤を回し続け、腕を磨き、初の個展を開いたのは30歳の時だった。

当時の木製品の殆どは、木の王様といわれていた欅を使ったものだった。その中で、小林さんは宮崎県産の樅と合歓を素材に選んだ。
木製品は欅でなければ...という風潮への反発もあった。また、加工しにくい木なので、他の人は使わないだろう。けれど、木目の美しさ、特に合歓は逆境に強い木なので、崖っぷちなど足場の悪いところに育ち、他の木に邪魔されず大きく育つので素材としての魅力があった。

木工芸に携わって35年。知れば知るほど、木の特性、性格がわかってくる。
クラフトを作るには、3つの要素が含まれていなければならない。
「用」・「美」・「楽しさ」がその3つ。
「用」...日本人が使うための器は、日本人の癖や習慣にあったもの。先ず、属人器であること。例えば、父親用の椀であったり、母親用の湯呑であったり自分用の箸であったり、その人に属する、その人用のものである。つまり、大きさも各々違ってくる。
それを示すのが人間尺。飯椀であれば、茶碗を持つ手を伏せた茶碗にかぶせて、
つかみ取れる大きさが最適。また、親指と人さし指を開いた指先を結んだ長さを"あだ"といい、この"あだ"の1.5倍が、その人に最適な箸の長さである。
「美」...その上で、素材のどの部分に鋸を入れ、木目をどう加工し塗装すると、より美しく仕上がるかを考える。素材によって、漆と相性がいいもの、菜種油やゴマ油の方が美しい木目が出るもの。あるいは、柿渋、紅殻と使い分ける。
そうして完成したものが、使って「楽しい」と生活に潤いを与えてくれるのである。

宮崎県産の樅や合歓で作り続けてきた小林さんが、県産スギに注目したのは6年前。宮崎県の依頼で、空港内のオアシス広場に、県産スギを使った家づくりを見せるイベントのディレクターを務めたのがきっかけだった。

宮崎空港屋内のスペースに、県産スギを使ったスケルトンの家を建て、構造材を見せるというもの。加えて、床や壁の一部を見せる必要もあった。
床のフローリングや壁には、漆やゴマ油、柿渋を使って色の変化をつけた。
せっかくデザイナーやアーティストの関わっているイベントなので、家だけでなくテーブルや器も作って、より楽しく見せようということになった。
スギの表面を、昔ながらの槍鉋で削って風合いを出した。器には漆を重ねて摺り込むことで美しい木目を活かせた。
イベントの場面づくりとして作ったものが、新たな作品へとつながったのだ。

宮崎県産スギは、油成分を多く含むので、シロアリに強く腐れにくいことから建築用としての需要はあったが、白木のままだと爪でも傷がつくほどなので、
トロ箱やミカン箱など使い捨ての道具やパーツとしては、安価で人気があったものの木工芸には向かないといわれてきた。
ところが、漆を刷り込むことで、他の木の3倍以上も吸い込んでしまうものの、その分堅くなり、表面効果も大きくなることがわかった。

宮崎県産スギの魅力は、「木目が粗い」という欠点でもあるが、それを轆轤で加工し曲線(カーブ)を持たせるとモダンな柄が出てくること。
小林さんは『杉モダン』と名づけた。
現在、市場に出回るのは、直径50~60cmのスギが多いが、できれば100cmを超えるスギを使って、器に出てくる『杉モダン』を見てみたいと語る小林さん。

高齢化社会の中で、お年寄りが使う器も考えてみたい。スギは欅の半分の軽さなので、高齢者だけでなく子供にとっても扱いやすい。
落としても割れにくく、天然素材の漆で塗装するので、害がなく安心して長く使える。

小林さんの思い描く"生活の中の器"とは...
「戦前は、集落の中に職人さんがいて、その地域の素材で色んな道具を作ってくれていたんですね。箸なんて、手形をとって、その人に合った長さ(1.5あだ)で作る云わばオーダーメイドだったんです。戦後は、そんな職人さんがいなくなってしまった。
工芸というのは、使い込み吹き込むことによって、時を経て初めて存在価値があるんです。僕の器を20~30年使い続けてくれている人もいます。
使っているうちに白けてきても、再度、漆加工をすることができます。
そうやって使い込んでもらえる、1人1人にあったオーダーメイドの属人器を作り、メンテナンスもできる職人さんが、それぞれの地域にいる...そうなったら嬉しいですね。
洋服やシャツのオーダーメイドシステムは残っているのですから、器のオーダーメイドがあってもいいですよね。」

話を聞いた後に、小林さんの作った椀と箸で頂く食事は、いつもより何割か美味しさアップに感じた。

●小林俊雄さんのプロフィール
[仕事略歴]
国際見本市「中小企業長官賞」受賞
アセアン諸国美術館「現代のクラフト巡回展」招待出品
九州クラフトデザイン展「岩田屋賞」受賞
富山プロダクトデザインコンペ「デザイン優秀賞」
全国木工ロクロ展招待出品
九州デザインコンペ「金賞受賞」
朝日現代クラフト展招待出品
デザインコンペ海南入賞
2003?2006 木をいかした家づくり空港展企画運営
2004シーガイア松泉宮の施設木工品デザイン製作

[工房]
日向美術工芸社
〒880-0871 宮崎県宮崎市大王町26
工房直通IP電話 050-3308-9726
 

Categories

2017年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31